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第1部 三章【護りのミサト!】その2 第伍話 ミサトの指導

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-11-15 19:00:00

48.

第伍話 ミサトの指導

 ミサトの指導はとても良かった。

 大多数の初心者に優しく教えるのはもちろんのこと、ある程度打てる実力がある子にも、プロはすごいと分からせてすぐに黙らせた。そのきっかけになった手がこれ。

生徒A手牌

二伍六七八⑤⑥⑦⑧22456 ドラ七

打二

ツモ⑦

打八

「リーチ!」

 上家も八萬を合わせて捨てた。そして

「ツモ!」

伍六七⑤⑥⑦⑦⑧22456 ⑥ツモ ドラ七

「メンタンピン一発ツモドラ…跳満! 見ての通り。おれに指導はいらないですから他を見てて大丈夫ですよ、プロ」と生徒Aは自信あり気にした。しかし……。

「えっ、でも」

「でも?(でもなんだって言うんだ。この手は文句なくプロと同じアガリしたでしょうが!)」

「……いや、このアガリは正直言って…… 甘いですね」

「ハア!? 三色でも待てっての?」

 思わぬ否定をされた事で学生はカリカリきていた。

「そうじゃない。あなた、名前聞いていい?」

「……伊坂保(いさかたもつ)」

「そう、たもちゃんね。たもちゃんは八萬切りリーチにしたでしょう? これが良くない。ここは伍萬切りリーチにしないと」

「(たもちゃ……まあいいか…)なんでですか。二萬も捨てているし伍萬と八萬の違いが恥ずかしながら僕には分かりません。先生、わかるように教えて下さい」

「あら、素直で良い子ね。では解説に入ります。みなさん、こちらの黒板を見て下さい」

 伊坂タモツは内心(くだらない理由だったらここぞとばかりに見下してやる)と思っていた。だが、ミサトの教えはあまりにも的確で、そして感心するほど鋭かった。

「二萬を捨ててある以上、スジ理論では一見伍萬切りと八萬切りに違いがないように思えます。しかし、今回のドラに注目してください」

 カッカッ!

 ミサトが黒板に書き込んでいく。

ドラ七

伍六七八⑤⑥⑦⑦⑧22456 切り番

「ここで八萬を切ってリーチしたわけですが。八萬切りリーチのドラ七萬の時に伍萬はどうやったらアガリ牌になりますか?」

「ええと単騎は…… 八萬に受ける方がいいしなあ」

「そう、このルールに赤5は入れてませんもんね、使い勝手の悪さという見方から伍萬か八萬の単騎選択なら八萬単騎を選ぶべきでしょう」

「となるとシャンポンか……」

「そうね、そのくらいしかないわよね。カンチャンなら四六八からなので打点という点でドラの方に受けたいですからね。なのでほぼ通る伍萬となる…… と」

 カッカッカッ!

 八切りの伍=ほぼ通る

「では今度は逆に伍萬切りリーチにした場合の八萬を検証しましょう。こちらはどうですか?」

「ええっと、まず単騎の可能性は捨てきれないです」

「そうですね」

「シャンポンもあるかもしれません」

「はい、シャンポンもあり得る…… と」

「カンチャンは…… すごくありそうです!」

「そう! いまカンチャンすごくありそうって言った子。手あげて」

「はい」

「あなた、名前は?」

「大林守(おおばやしまもる)です」

「あら、保だの守だの、ずいぶんとまた守備的な子ばかりね。『護りのミサト』の指導先にはもってこいじゃない。ふふふ」

「面白い偶然ね」とユキも笑う。

「で、まもちゃんは何故すごくありそうだと思ったのかしら?」

「えっとそれは、ドラが七萬だからです」

「そう! そうなのよ。まもちゃん偉い、100点! つまり――」

 カッカッカッ!

ドラ七

四六八 打八リーチに嵌伍はほぼなし。

伍七九 打伍リーチに嵌八は本命!

「…たしかに…」

「つまりー、この手を八萬切りリーチにしたのは1種類分隙のある選択だったってこと。その証拠に上家は八萬から捨ててるでしょ。これ伍萬切りリーチにしてたら八萬を捨てられなくて撤退に追い込んでたかもしれないわね」

「うぐっ」

「隙のない捨て牌を作ることで反撃をさせないのも守備のひとつよ。プロならね、攻めてる時にも可能な守りを固めるの」

「お見それしました! 井川プロ、僕たちを強くしてください!!」

 たった一打の選択でその実力を証明する。それがプロであり、井川ミサトなのであった。

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